人生何でも二刀流!

恥もせずに25年振りに剣道復帰。中年のボテ腹抱えてヨタヨタランニング。下手な競馬。痩せない言い訳ダイエット。いまさら自分の性格を持て余し、適応障害になるやら癌になるやら。自分に甘くとことんぬるい、人生に行き迷う私とあなたのブログです。

蕎麦奇譚(それはまるで「ちびくろサンボ」のような)

京橋、八丁堀、日本橋、茅場町と歩いてきて、私は途方に暮れていた。

無類のうどん好きを自認する私は、気に入りのうどん屋が休みであったため、すっかり昼食の当てを失ってしまっていたのである。

 

うどんとなれば何でも美味いが、関東でもうどんと言えば讃岐うどんに席巻されて久しい。

投手に例えると、讃岐うどんが本格右腕の速球派としたら、稲庭うどんは左の軟投派。

 

 

水沢うどんはセットアッパー。

きしめんは難癖のアンダースロー。

五島うどんがクローザー。

あのふにゃふにゃしたのは何だっけ?

ああ、伊勢うどんだ。

あれは外国人助っ人的な感じがする。

うどんなのに外国人とはなぁ。

逆にごりごりの武蔵野うどんはどうだろう?

一軍と二軍を行ったり来たりで、かつての澤村のような…

 

 

 

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そこまで想像を膨らませていたところに、私の視線が良い塩梅にくたびれた暖簾のある店を捉える。

 

蕎麦屋か…。

場所は茅場町から歩いて堀留町である。

 

堀留町で蕎麦。

そしてこの店構え。

江戸っ子的な趣があるが、残念な事に私はその粋が無い。

しかしいい加減、歩き疲れてもいる。

 

入ろうか迷っている所に、男が一人、店から出ていく。

出たという事は一人分は空いているに違いない。

意を決して暖簾をくぐる。

 

「いらっしゃい」

店内はカウンター席のみ、詰めに詰めて12席ほどであろうか。

店構えの割に店内は明るく、清潔である。

客は無言のまま、ただ蕎麦を啜っている。

 

先に出た男が座っていたであろう椅子に、私は座る。

……違和感。

普段あるものが、ここには無い。

そう、品書きが無いのである。

 

隣を見ても、店内を見ても見当たらない。

全てが時価?まさか。

あまりにも不相応な店に入ってしまったのだろうか。

 

 

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蕎麦屋というに相応しい店構えである(自分画伯)

 

 

 

「ごちそうさん。置いていくよ」

男が一人、500円玉をカウンターに置いていく。

「毎度どうも」

店主が応じる。

 

500円…そんなに安いのか?

慣れた感じを見るに、常連客の裏メニューか?

 

隠しきれない動揺を持って店内を見回し、ヒントを探る。

「お待ちどう」

そんな私にお構いなしに、目の前に盛り蕎麦が置かれた。

 

なるほど。

私は一人、合点する。

盛り蕎麦しか出さない店か。

それで500円。

今日日、蕎麦も500円じゃ名代富士そば界隈でしか目にしない。

やるじゃないか。

 

 

割りばしを取っていざという時に、また違和感を感じる。

蕎麦猪口には蕎麦汁が無い。

水が入っているだけである。

 

いや…と私は思う。

そもそもこれは、水なのか?

 

「あの…すみません」

「はい、なんでしょう」

意外に主は気さくである。

 

「汁が…ないようですが」

主はやや鼻を鳴らす。

「お客さん、うちは『水蕎麦』って言ってね。水につけて食べて貰うんですよ」

そんな事も知らないで来たのか…。

 

その空気。

言葉は無くとも、察する力は人にある。

 

「はあ…なるほど」

蕎麦の美味い不味いは分からないが、水で食わせるからには名店かも知れない。

 

 

気持ちを新たにしたところに、初老の男が勢いよく店に入る。

「いらっしゃい」

主はここでも気さくである。

「おう、蕎麦を一つな」

 

私は蕎麦を一口啜る。

うん、うん。

と思うが二の句は無い。

蕎麦通には美味いのだろう。

 

間もなくして、初老の男の前にも蕎麦と、例の水の入った蕎麦猪口が置かれる。

初老の男が店主に言う。

 

 

「おう、親父。汁がねえじゃねえか」

主は鼻を鳴らす。

「うちは『水蕎麦』って言ってね。水につけて食べて貰うんですよ」

「なんだ?蕎麦って言ったらな、真っ黒の汁があってのもんよ。ええ?蕎麦をつゆにちょいと浸けて、こうツルツルってやるのが江戸っ子よ。それじゃなきゃ嘘だぜ。水だかなんだか知らねぇけんど、何でも良いから汁持ってきなよ。なんなら醤油だってかまんねえんだから。黒けりゃ。」

 

 主が気色ばむ。

「食えねえって言うなら無理にとは言いませんぜ」

「なんだと?やるってんのか、こんちきしょう」

「客がやるってんならおあつらえよ。殴ってみやがれ。こんこんちきめ」

「なんだとぉ。殴れと言われて殴らない法はないわな。」

「やるかぁ?」

「やらいでか」

 

 

店内は大混乱である。

器は割れる。

寸胴は転がる。

笊が飛び交い蕎麦粉が舞う。

 

遂に二人は取っ組み合い、グルグル回り出す。

グルグルグルグルグルグルグルグル‥‥

グルグルグルグルグルグルグルグル‥‥

グルグルグルグルグルグルグルグル‥‥

 


いつしか二人の姿は大量の蕎麦粉になっていた。

私は蕎麦粉を近くにあった麻袋に入れて、500円玉を置いて店を出る。

 

私はその足でフランス人の愛人宅に行く。

そこで美味しい蕎麦粉クレープを作って、二人で仲良く食べたとさ。

 

 

おしまい。

  

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名作でございますな(自分画伯)

 

※言わずもがなフィクションです。

 

 

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